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W.A.project 応援コラム #2
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漆の実力を化学しよう!
太長年人工塗料の研究をなさり、漆についても様々な発表をして
おられる金沢工業大学教授・小川俊夫先生に、漆の実力をお伺い
しています。
お話の冒頭は
こちら
から。
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漆器でご飯を食べると美味しい、にも理由がある
その他、我々の食生活のなかで、漆という塗料によるメリットはあるのでしょうか?
「器としては、いまではプラスチック、陶磁器、ガラス、など、たくさんの素材が出回っていますね。
そのなかで、よくも悪くも最大で自分の体積の50%も水気を吸うという性質をもつのが木です。この(下図)顕微鏡写真は下地のしっかりした輪島塗ですが、繊細な数十ミクロンの層で木を被っている状態で、空気中の湿気は通します。木が呼吸することで、ごはんの余分な湿気をとる事ができるのでしょうね。だから炊きたてのご飯をおひつにいれたり、料亭などで漆器の飯椀を使ったりすることも、理に適っていると言えますね。」
湿気を吸うということは、カビなどの原因にならないのですか?
「木のよいところは、吸った湿気はまた吐き出してしまう、というところです。まさに呼吸ですね。なので、風通しの良いところに保管しさえすれば、水をため込むことにはなりませんよ。同時に漆は、とても水を好む性質を持っています。我々の実験でも、水気がある環境のほうがより物性として『伸び』がよく、縮んでひび割れたりしにくいことが証明されています。使わずに放っておかれた漆器がひび割れるのは、漆の物性が活かされない環境にあるためで、できるだけ使って洗って、水に触れさせた方が長もちすることは確かです。」
この顕微鏡写真の下半分は、木の組織にあたるわけですね。
「そうです。見て頂いて分かる通り、木の組織には隙間があって、空気がたっぷり入っています。プラスチックは充填するものなので、組織に隙間は一切ありませんから、器の形にしたときに、熱い物を容れればすぐに熱くなり、持てないということもおきます。漆器なら、食べ物に空気の層を着せているようなものですから、手に熱くなく、食べ物の保温性も保つことができる、ということになります。」
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小川教授、漆器はお好きですか?
漆や木の特性を数々伺って来たところで、化学者としてではなく生活者として漆器がお好きかどうか、伺ってみました。
「うーん、やっぱり漆器はいいよねえ。理屈でなく、いいものはいい。家でもよく使いますよ。ただ、電子レンジや食器洗い機など、便利な現代生活になくてはならないものに使えないというのは正直不便だね(笑)。プラスチックの業界では、日々新しい技術が世界中で研究されている。新たな良いものがどんどん出てくるのが当たり前の業界にいてもなお、不便だと言いながらも毎日漆器を使っているということは、やっぱり説明できない良さがあるんじゃないのかな。でもこれからは、その良さをわかっている人が使うだけではなくて、良いか悪いか分からないひとも『使ってみようかな』と思える、何らかのきっかけが必要だと思いますよ。」
膨大な研究資料のなかから最後に小川教授が見せて下さったのは、アメリカやヨーロッパの美術館、博物館の一般には入ることのできない特別な倉庫に眠る、たくさんのアンティーク漆器たちに出会われた時の写真でした。学生さんの間でも多趣味で評判の小川教授、化学者としての御興味だけでなく、漆の美しさに惹かれるお一人であることは想像に難くありません。(06年12月取材)
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