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W.A.project 応援コラム #2
漆の実力を化学しよう!
太古の昔から、天然塗料として人の暮らしを豊かにしてきた漆。
人工の、様々な機能に優れた塗料が日々進歩を繰り返す今日にお
いても、漆のくれる温かな心地よさが注目されています。
長年人工塗料の研究をなさり、漆についても様々な発表をしておら
れる金沢工業大学教授・小川俊夫先生に、漆の実力をお伺いして
きました。
小川俊夫 教授 プロフィール

金沢工業大学教授、工学博士。宇部興産枚方研究所主任研究員、京都大学委託研究員、米国ミシガン分子研究所研究員を歴任。専門は高分子工学、プラスチックフィルム等の表面処理、接着、生分解性プラスチック、塗料、著書多数。

プラスチックの良さを知り尽くす化学者として、漆を語りましょう!
「プラスチックの良いところは、たくさん知ってますよ。」

化学系企業で20年来、プラスチック素材の研究開発に携ってこられた小川教授は笑顔でこう
おっしゃいます。
「漆も、膨大にある塗料のなかの1つ。分子構造を見ていけば、エポキシ樹脂も、皆さんが日頃お使いになるクイックボンドのようなものも、簡単に言うと固まる原理は一緒なんです。」

教授がホワイトボードにうるしの主成分である「ウルシオール」の分子構造を書いて下さると、たちまち、懐かしくも恐ろしい(?)化学の授業風景に。

「ただし、漆が他の塗料と異なる点は、木の樹液という大昔から存在する唯一の天然素材だということです。」

なるほど。教授が漆を研究なさるきっかけも、そのあたりの不思議にあったのでしょうか。

「今も、研究の8割はプラスチック関連です。現代生活に必要な素材として、プラスチックは様々な面で非常に優れています。研究者としては、その比較対象となるさまざまな素材に興味があるわけですが、漆に関して言えば、日頃、2、3日に一度はうちの奥さんに変わって食事の後片付けをするんですが(笑)、プラスチックのバットなんかは毎日いろいろな汚れが目立ってつきやすいのに、漆の椀はそんなことはありませんね。なぜなのか・・そんな日常的な疑問から、研究してみようかと。科学的に公平な立場から、地元の産業に貢献できれば、という思いも強くありました。」

うるしの研究を始められてから8年。収集したサンプルや資料の量は膨大で、その産地も多岐に渡っています。

「やはり、ウルシオールの成分が濃い方が、漆の本質も色濃いわけです。どこで採れたものも自然科学的には同じでしょうが、環境による地域差はあるようです。例えば中国では、ウルシの木に葉っぱを小さなうつわ状に丸めて括り付けておき、垂れてくる樹液を採集する方法を見ます。これだど必然的に雨水の分、水分も多くなりますね。タイのウルシは高音多湿日本の環境では固まりにくい、など、その土地土地でいろいろな特徴があるようです。」
食物を細菌から守る、という漆器のチカラ
その「漆の本質」について、実験ではどのようなことが分かって来たのでしょうか。

「我々の毎日の暮らしに関わることとしてやはり一番に挙げられるのが、漆には抗菌性があるということです。
微生物類の喜ぶ36℃の環境を人工的に作り、大腸菌群の入った溶液を漆器とプラスチックの板上に垂らして放置するという実験を行ないました。結果、簡単に言えば、1ml中に約20万個存在した大腸菌群が、24時間後、プラスチック板上では約6万個に、漆器ではなんとたったの26個に減っていたんです。
産地や顔料の違いも含め、状態の異なる様々のサンプルを用いた実験の結果、ウルシオールそのものに抗菌の作用があることが認められました。」

なぜ漆には、そんなパワーがあるのでしょうか?

「天然の物は自然の理、としか言えませんが(笑)、しいて化学的見地から言うと、昔から手の消毒に使うフェノールと、分子構造が似ていることは確かです。」

昔の人がそんなことを知って使っていたとは思えませんから、それは驚きの事実ですね。

「漆を塗らない、木材そのものの表面でも、30品種あまりの実験を行ないました。すると昔から、家や仏像の材料となって来たヒノキ、ヒバ、アテの木は、漆の塗装面と同等とまでは行かないまでも、他の材と比べ劇的な抗菌効果が見て取れます。昔の人の知恵がいかに進歩的で効果的であったかがわかる結果となりました。」
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